AI音声技術を開発するアメリカのスタートアップ企業「ElevenLabs(イレブンラボ)」は、年間経常収益が6億ドル(約930億円)に達し、企業価値が220億ドル(約3兆4100億円)と評価されていることを明らかにしました。同社のマティ・スタニシェフスキCEOが、カナダで開催されたイベントにおいて、今後の事業戦略やAI技術の展望について方針を発表しました。
ElevenLabsは、テキストを人間の声に近い音声に変換するAIモデルを開発しています。この技術は、アメリカの決済サービス大手「クラーナ」の顧客対応をはじめ、ドイツテレコムやシスコ、アドビなどの企業に採用されています。また、各国政府やクリエイターによるオーディオブックや吹き替えなどにも広く利用されているということです。
スタニシェフスキCEOは、現在の事業構成について「収益の55%以上が大企業向けであり、残りの多くを中小企業や開発者、クリエイターが占めている」としています。
今後の技術的な展望について、スタニシェフスキCEOは「3年から5年後には、音声モデルの品質の差は縮小する」と予測しています。そのうえで、「会話型AIにおいて、知性だけでなく相手の感情を理解し、話す速度や声の大きさを調整できる『感情的知性』を組み合わせることで、人間とAIを区別できないレベルに到達することを目指す」方針です。
一方で、同社の技術を利用していた顧客が独自のモデルを開発し、競合となるケースも増えています。これについてスタニシェフスキCEOは、「モデル開発企業、プラットフォーム企業、アプリケーション企業の境界線は曖昧になっており、この傾向は今後も続く」との見方を示しました。
また、各国の政府機関との連携においては、要件に応じてモデルを使い分けているということです。例えば、ポーランド政府との医療分野での連携では、患者の予約忘れを防ぐためにAIが電話でリマインドを行うシステムを導入しており、データの国内保存などの条件を満たしながら運用しているとしています。
企業が顧客に対してAIを使用していることを開示するべきかという問いに対し、スタニシェフスキCEOは「現時点では開示するべきだ」と述べました。しかし、「5年後にはAIエージェントの利用が一般的になり、社会の認識も変化する」と予測しています。
利益率については詳細な言及を避けたものの、「顧客に価値を提供し、市場シェアを拡大できるのであれば、利益率が低下しても構わない」として、目先の利益よりも長期的な成長を優先する方針を明らかにしました。
AIの学習データに関しては、単なるデータの量よりも、感情やアクセントなどを正確に注釈付けする作業を重視しているということです。専門の音声コーチを招き、数千人規模のスタッフがデータの品質向上に取り組んでいるとしています。
さらに、2028年の新規株式公開(IPO)の可能性については、「長期的に存続する企業を作るための基盤整備を進めているが、具体的な時期は状況次第だ」と述べるにとどめました。
最後に、高度なAIモデルの開発ペースやセキュリティリスクについて、スタニシェフスキCEOは「業界全体で適切なペースを見つけるための協力が必要だ」と指摘しました。同社の技術については、「AIが自己複製するような機能は提供しておらず、厳格な顧客確認を実施するなど、十分な安全対策を講じている」と強調しています。
