アメリカのIT企業によるAI=人工知能のインフラへの巨額の投資が続く中、アメリカのベンチャーキャピタル大手の専門家は、投資に見合う収益を確保するためには、AI業界全体で3兆ドル(約465兆円)の収益が必要になるという試算を発表しました。専門家は、巨大IT企業が収益目標を達成できない場合、経済全体に深刻な影響を及ぼすおそれがあると指摘しています。
アメリカのベンチャーキャピタル、セコイア・キャピタルのパートナーであるデビッド・カーン氏は3年前、シリコンバレーにおけるAIインフラへの巨額投資の影響をいち早く試算しました。2023年当時、半導体大手エヌビディアのGPU=画像処理半導体の年間売上高が500億ドル(約7兆7500億円)に上るという報告を受け、データセンターの運営コストなどを加味した結果、初期投資を回収するためには2000億ドル(約31兆円)の収益が必要になると分析していました。
カーン氏はこれを課題と捉え、起業家に対してインフラを活用して収益を生み出すAI製品やサービスの開発を呼びかけました。それから3年が経過し、投資規模が拡大し続けた結果、2026年のAIインフラへの投資額は1.5兆ドル(約232兆5000億円)に達すると新たに試算しています。
この結果、AI業界全体として、半導体やデータセンターへの投資を正当化するためには、3兆ドル(約465兆円)の収益を上げる必要があるとしています。さらに、メモリー価格の高騰や特殊な半導体の利用増加により、この必要額はさらに膨らむ可能性が高いということです。カーン氏は、「建設コストの上昇などにより、設備投資に対する必要収益は急激に増加している」と指摘しています。
一方で、AI企業の収益も拡大しています。アメリカのAI開発企業アンソロピックの年間経常収益は600億ドル(約9兆3000億円)に達したとみられるほか、オープンAIの2025年の収益は130億ドル(約2兆150億円)と報じられています。オープンAIは同年11月に年間経常収益が200億ドル(約3兆1000億円)に達したと発表しており、今年はさらに増加すると見込まれています。しかし、必要とされる収益との間には依然として大きな隔たりがあるということです。
こうした状況について、大手資産運用会社アポロのチーフエコノミスト、トルステン・スロック氏が警鐘を鳴らしています。同氏は最近のリポートで、グーグル、メタ、マイクロソフト、アマゾンといった巨大IT企業が、2028年にフリーキャッシュフロー(純現金収支)の大幅な増加を予測している点に言及しました。これは、各社がこれまでの半導体投資に対する見返りを期待していることを示しています。
しかし、スロック氏は、この期待が外れるリスクも指摘しています。現在、多くの企業が最先端のモデルではなく、中国製などのより安価なオープンモデルを利用する傾向があり、トークン(データ処理の単位)の価格も下落しています。オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)によれば、最新モデルはプログラミング作業においてトークンの効率が54%向上しているということです。これは利用者にとってコスト削減につながる一方、利用量が大幅に増加しない限り、AI開発企業にとっては収益を圧迫する要因になり得ます。
スロック氏は、巨大IT企業が目標とする収益を達成できなかった場合、市場への影響は深刻なものになると懸念を示しています。「少数の企業に過度に依存しているため、投資回収の遅れは単なる業界の問題にとどまらず、経済全体を景気後退に陥らせ、株価の調整を引き起こすリスクがある」としています。
