アメリカで、AI=人工知能を活用して報道記事の真実性を評価する新たなサービスが立ち上げられ、内部告発などによる調査報道が萎縮するのではないかと議論を呼んでいます。運営会社は、著名な投資家などから数百万ドル(数億円)の資金調達を実施したと発表しました。
このサービスは、新興企業「オブジェクション(Objection)」が開発したものです。創業者のアーロン・ドゥスーザ氏によりますと、報道によって被害を受けた人が反論する手段を提供することを目的としているということです。
利用者は2000ドル(約31万円)を支払うことで、特定の記事の事実関係について異議を申し立て、公開調査を依頼することができます。同社は、著名投資家のピーター・ティール氏などから数百万ドル(数億円)の初期資金を調達し、サービスを開始したと発表しました。
ドゥスーザ氏は、数十年にわたって低下してきたメディアへの信頼を回復させることが目標だとしています。しかし、メディアの専門家や弁護士からは、権力機関の責任を追及する報道、特に匿名の情報源に依存する調査報道を困難にするおそれがあるという指摘が出ています。
匿名の情報源は、汚職や企業の不正を暴く調査報道において重要な役割を果たしてきました。これに対しドゥスーザ氏は、「独立して検証されていない完全な匿名情報源」は、同社のプラットフォーム上では証拠としての信頼性スコアが低くなるとしています。
同社の評価基準では、規制当局への提出書類や公式な電子メールなどの一次記録が最も重視される一方、匿名の内部告発者による主張は低く評価される仕組みです。収集されたデータは、最終的に「オナー・インデックス(名誉指数)」と呼ばれる数値に変換され、記者の誠実さや正確性を反映するとしています。
ドゥスーザ氏は、「情報源を保護することは重要ですが、そこには権力の非対称性が存在します。報道される側には、情報源を批判する手段がありません」と述べています。
このシステムでは、複数の主要な生成AIモデルを「陪審員」として活用し、証拠を検証する方針です。しかし、AIシステム自体が偏見や不正確な情報(ハルシネーション)を生成するリスクを抱えており、真実の判定者として利用することには課題も残されています。
また、異議申し立てに2000ドル(約31万円)が必要となることについて、専門家は懸念を示しています。メディア法に詳しいミネソタ大学のジェーン・カートリー教授は、「資金力のある権力者が、批判的なジャーナリストを威圧するための手段として利用するおそれがある」と指摘しています。
さらに、このシステムは提出された証拠のみを評価するため、調査報道でよく見られる「非公開の機密情報」がどのように扱われるかという疑問も生じています。記者が自らの信用を守るために、参加を希望していないシステムへの証拠提出を事実上迫られる可能性もあります。
一方で、言論の自由に詳しいUCLAのユージン・ボロック教授は、このプラットフォーム自体が言論の自由を侵害するものではなく、ジャーナリズムに対する批判の枠組みの一部であるとの見方を示しています。
AIを用いた新たな評価システムが、ジャーナリズムの透明性を高めるのか、あるいは内部告発を萎縮させる結果を招くのか、今後の動向が注目されています。
