アメリカのスタートアップ企業「アンティオック(Antioch)」は、ロボットなどの物理的なAI(人工知能)を開発するためのシミュレーションツールを強化するため、850万ドル(約13億1750万円)の資金調達を実施したと発表しました。
物理的なAIの普及により、エンジニアはソフトウェアと同じように物理的なロボットをプログラムできるようになると期待されています。しかし、現状のロボット工学の分野では、現実空間からのデータ不足が開発の障壁となっています。企業は機械を訓練するために実物大の倉庫を建設したり、工場や作業員を監視してデータを収集したりする必要があるということです。
こうした中、現実世界を詳細に再現した仮想空間(シミュレーション)を活用する手法が注目されています。アンティオックは、この仮想空間と現実世界の差異である「シミュレーションと現実のギャップ」を埋めることを目標としています。同社の共同創業者であるハリー・メルソップ氏は、「自律型システムにとって、シミュレーションが現実世界と全く同じように感じられるよう、ギャップを最小限に抑える方針です」と述べています。
同社は今回のシードラウンドの資金調達により、企業評価額が6000万ドル(約93億円)に達したと発表しました。資金調達はベンチャーキャピタルの「A*」や「カテゴリー・ベンチャーズ」が主導し、複数の投資会社が参加したということです。
アンティオックは昨年5月、ニューヨークを拠点に5人のメンバーで設立されました。創業メンバーには、過去にセキュリティ関連のスタートアップを立ち上げて売却した経験を持つ人物や、メタ(旧フェイスブック)やグーグルのAI研究部門の出身者が含まれています。
同社は、自社の製品をAIを活用した人気のソフトウェア開発ツール「カーソル(Cursor)」の物理AI版と位置づけています。開発者は仮想空間上で複数のロボットを稼働させ、現実世界と同じようなセンサーデータを模倣してテストを行うことができます。これにより、例外的な状況の検証や強化学習、新たな訓練データの生成が可能になるとしています。
現在、同社は自動運転車や農業・建設機械、ドローンなどで需要が高い、センサーや認識システムに注力しています。資金力が限られている新興企業に対し、大規模なテスト施設やデータ収集を行わずに開発を進められるプラットフォームを提供する方針です。
自動運転関連のスタートアップで幹部を務めた経験を持つエンジェル投資家のエイドリアン・マクニール氏は、「高い精度が求められる作業において、現実世界だけで十分な走行距離を稼ぐことは不可能であり、シミュレーションが極めて重要です」と指摘しています。
すでにマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者が、アンティオックのプラットフォームを使用してAIモデルの評価実験を行っているということです。メルソップ氏は、「今後2、3年のうちに、現実世界向けの自律型システムは主にソフトウェア上で構築されるようになる」との見通しを示しており、デジタルと現実の壁を越えた開発環境の構築が期待されています。
