イギリス・ロンドンで、アメリカのシリコンバレーに見られる過酷な労働環境とは一線を画し、生活の質を重視しながら起業を目指す若者たちのシェアハウスが注目を集めているということです。
ロンドン東部に位置する「ロンドン・アイランド・ファウンダー・ハウス(通称:リフト・ハウス)」には、AI(人工知能)などの新興企業を立ち上げた20代の起業家6人が共同生活を送っています。この施設は今年3月に開設され、起業家を支援するという目的と、建物内のエレベーター(イギリス英語でリフト)にちなんで名付けられたということです。
アメリカのサンフランシスコなどに点在する起業家向けの「ハッカーハウス」では、短期間での成果を求める過酷な労働文化が一般的とされています。しかし、リフト・ハウスの設立者であるローワン・アルディーン氏(26)は、「短期間での成果よりも、生活の総合的な向上を目標にしている」と説明しています。イギリスの起業家たちは、シリコンバレーの過剰な競争文化を模倣することなく、成功を収めることができると考えているということです。
調査会社ディールルームのデータによると、ロンドンの新興企業全体で147億ドル(約2兆2785億円)の資金が調達される中、AI関連企業はこれまでに120億ドル(約1兆8600億円)を調達しています。ウェイブ(Wayve)やイレブンラボ(ElevenLabs)など6社は、それぞれ5億ドル(約775億円)以上の資金調達に成功したということです。こうしたAI分野の活況が、新たな世代の起業家たちを勇気づけているとしています。
リフト・ハウスの住民たちは、野心と生活のバランスを取ることを目指しています。日曜日には全員で日記を共有し、自然と触れ合った時間や食事の質、運動量などを確認し合う取り組みを行っているということです。また、火曜日の夜には地元のリーグでバレーボールを楽しんだり、夕食後にピアノを弾いたりするなど、仕事以外の時間を大切にしているとしています。
イギリスの起業環境について、アルディーン氏はアメリカとは異なるプレッシャーがあると指摘しています。イギリスにはリスクを避ける傾向や、成功者を過度に批判する「出る杭は打たれる」風潮があるということです。一方で、イギリス政府が提供するシード企業投資スキーム(SEIS)などの税制優遇措置を活用することで、初期段階の資金調達がしやすいという利点も挙げられています。
しかし、イギリスの新興企業が成長するにつれて、最終的にはアメリカ市場を目指すケースが多いのも実情です。アメリカには世界最大の経済規模と、巨額の投資を行う投資家が存在するためです。一部の起業家は、アメリカの投資家から資金提供の条件としてアメリカへの移住を求められるケースもあるということです。
ロンドンで過去に設立された別の起業家ハウスでは、入居条件として50万ドル(約7750万円)以上の資金調達が求められるなど、競争を重視する側面がありました。これに対し、リフト・ハウスでは、入居希望者に対して事業以外の趣味や健康への関心を示すことを求めているということです。
アルディーン氏は、「私たちの文化は、一時的な成功を追い求めて燃え尽きるのではなく、長く続くものを築き上げることです」と述べており、持続可能な企業成長を目指す方針を示しています。
