アメリカのスタートアップ企業「10x Science」は、AI(人工知能)を活用して新薬候補の評価プロセスを効率化するため、シードラウンドで480万ドル(約7億4400万円)の資金を調達したと発表しました。AIによって急増する新薬候補の分析という課題を解決し、製薬業界の開発を支援する狙いがあるということです。
科学分野におけるAIの最大の成果の一つは、タンパク質の複雑な構造を予測する深層学習モデルの活用です。しかし、AIモデルが潜在的な治療薬の候補を次々と生み出す一方で、新たな課題も浮上しています。それは、テストや大量生産に向けて、膨大な候補物質の特性を実際に評価するプロセスが追いついていないということです。
この課題の解決を目指すのが、2025年12月に設立されたスタートアップ企業「10x Science」です。同社は、ベンチャーキャピタルの「Initialized Capital」が主導し、「Y Combinator」などが参加するシードラウンドで、480万ドル(約7億4400万円)の資金を調達したと発表しました。創業者は、生化学の専門家であるデビッド・ロバーツ氏とアンドリュー・ライター氏、そしてコンピューター科学とAIモデルに精通するビシュヌ・テジャス氏の3人です。
ロバーツ氏は、「製薬会社が新薬候補を作成する際、優れた予測ツールを利用できます。しかし、どれだけ多くの候補を出しても、すべて特性評価のプロセスを通過し、測定されなければなりません」と指摘しています。
タンパク質の構造を理解することは、生物学的製剤を開発する研究者にとって極めて重要です。生物学的製剤は生きた細胞内で作られ、特定の病気や状態を標的とするよう高度に設計されています。例えば、免疫系ががん細胞を特定して攻撃するのを助ける薬などがこれに該当します。
創業者の3人は、ノーベル賞受賞者であるキャロリン・ベルトッツィ博士の研究室で共に働き、がん細胞と免疫系の相互作用を研究していました。その際、分子レベルで何が起きているかを正確に把握できないことに不満を感じたことが、起業のきっかけになったということです。
分子を最も正確に評価する方法は、「質量分析」と呼ばれる複雑な技術です。これは電場の中で分子を測定し、その原子構造を決定するものです。しかし、この技術から得られるデータは複雑で、解釈には高度な専門知識と膨大な時間を要します。
「10x Science」のプラットフォームは、化学や生物学に基づくアルゴリズムと、データを解釈できるAIを組み合わせています。同社は、質量分析データでモデルを訓練し、分析の追跡可能性を確保するための開発を進めてきました。これは、製薬会社が規制要件を満たすために不可欠な機能だとしています。
バイオテクノロジー企業などに代わって化学分析を行う「Rilas Technologies」の研究者、マシュー・クロフォード氏は、数週間前からこのプラットフォームを使用しており、作業のスピードアップにつながっていると述べています。
クロフォード氏によると、このAIモデルは結論の根拠を説明し、分析に必要なデータを自ら探し出し、さまざまな種類の分子の評価に適応できるということです。同氏は、「ファイル名からタンパク質の種類を推測し、オンラインのデータベースからその配列を自動で検索してくれました」と評価しています。
「10x Science」は現在、複数の大手製薬会社や学術研究者と連携しているということです。今回調達した資金を活用してエンジニアを採用し、モデルの改良と新規顧客への提供を進める方針です。将来的には、タンパク質の構造と細胞に関する他のデータを組み合わせ、生物学の新たな理解を提供するサービスへと拡大することを目指しています。
投資家にとって、同社のビジネスモデルは特定の医薬品の成功や規制当局の承認に依存しないため、バイオテクノロジー分野への有用な投資機会となっています。Initialized Capitalのパートナーであるゾーイ・ペレ氏は、「これは製薬会社が毎月利用料を支払うSaaSプラットフォームです」と述べ、創業者たちの深い専門知識が競合他社に対する優位性になるとの考えを示しました。
このソフトウェアは、質量分析の専門知識やリソースを持たない研究者にとって、必要な答えを迅速に得て、次の研究段階に進むための重要なツールになることが期待されています。
