アメリカで家庭用蓄電池の価格競争が激化し、普及が急速に進んでいることが明らかになりました。大手企業や新興企業が市場参入を競う中、アメリカの電気自動車大手テスラなどは、家庭用蓄電池の新たなリースプランを導入し、利用料金を大幅に引き下げたと発表しました。背景には、蓄電池のコスト低下と「仮想発電所(VPP)」と呼ばれる新たな電力管理技術の台頭があるということです。
これまで家庭用蓄電池市場を牽引してきたテスラですが、設立から1年足らずで20億ドル(約3,100億円)の資金を調達した新興企業「Base Power」などの台頭により、競争に直面しています。これに対抗するため、テスラは主力製品「パワーウォール」のリースプランを改定し、月額料金を従来の3分の1以下に引き下げる方針を示しました。
家庭用蓄電池の設置費用は通常1万ドル(約155万円)を超え、これまでは資金に余裕があり、余剰電力を生み出す太陽光パネルを設置している家庭にしか普及していませんでした。しかし現在、テキサス州の住宅所有者は、容量27キロワット時のテスラ製蓄電池を月額35ドル(約5,400円)で、あるいは容量39.2キロワット時のBase Power製蓄電池を月額19ドル(約2,900円)でリースできるようになったということです。
このような大幅な価格引き下げを可能にしたのは、蓄電池自体のコスト低下に加え、「仮想発電所(VPP)」と呼ばれる技術の普及です。VPPは、各家庭に分散する蓄電池や給湯器などをネットワークで統合し、1つの大規模な発電所のように機能させる仕組みです。電力会社は電力需要が逼迫した際、このVPPから電力の供給を受けることができます。
調査会社グランドビュー・リサーチによりますと、VPPの市場規模は現在74億ドル(約1兆1,470億円)にとどまっていますが、2033年までに300億ドル(約4兆6,500億円)を突破すると予測されています。
これまで電力会社は需要の急増に対応するため、需要ピーク時のみ稼働する高コストな専用発電所を建設するか、工場などの大口需要家に対価を支払って一時的に電力使用を停止してもらうしかありませんでした。しかし現在では、VPP事業者に費用を支払うことで電力需給の調整が可能になっています。
VPP事業者は、電気料金が安い時間帯に蓄電池を充電し、需要が高まり価格が高騰した際に電力を送電網に売却して利益を得ています。その利益の一部は、電気料金の引き下げや安価な蓄電池の提供という形で消費者に還元される仕組みとなっています。Base Powerの担当者は、「電力供給の安定性はどこでも求められています。私たちの目標は、これが双方にとって有益な仕組みになることです」と述べています。
さらに、AI(人工知能)向けデータセンターの増加や経済全体の電化に伴い電力需要が拡大する中、電力会社や送電網の管理者はVPPの導入を積極的に進める方針です。
VPPには、導入スピードが速いという利点もあります。ピーク時用の発電所の建設には数年を要しますが、VPPは各家庭に蓄電池を設置するため、土地の確保や許認可、送電網への接続に関する課題が少なく、数か月で構築できるということです。例えば、Base Powerはテキサス州北部の電力協同組合と提携し、100メガワット規模のVPPを構築する契約を結びました。従来の発電所であれば稼働までに2年から4年かかるところを、12か月未満で設置する計画だとしています。
また、VPPは消費者が実際に電力を使用する場所の近くに分散して配置されるため、電力会社は新たな送電線などのインフラ建設にかかる費用を抑えることができるということです。
これまでテスラは、自社の蓄電池を活用したVPPを運用していましたが、消費者に対してはそのような形での宣伝を行っていませんでした。代わりに、日中に安価な太陽光の余剰電力で充電し、夜間に使用するという各家庭内での電力の最適化を推奨していました。
この戦略により、テスラはこれまでに6.7ギガワット相当の蓄電池を設置してきましたが、Base Powerのような新興企業が低価格の月額プランを打ち出したことで、戦略の転換を迫られています。Base Powerは現在、毎日8メガワット時相当の蓄電池を設置しており、年末までにこのペースを倍増させる目標を掲げています。
エネルギー関連企業の担当者は、「データセンターの増加に伴い、送電網への迅速な接続が求められる中、VPPの導入プログラムは今後さらに加速するでしょう」と指摘しています。大規模な発電施設が送電網への接続に数年を要するのに対し、分散型のVPPは数か月で構築できるため、今後アメリカ全土で普及が進むと見られています。
