ヨーロッパ各国が、アメリカのIT大手への依存を減らし、データ主権を確保するための「主権的テクノロジー」への移行を進めていることが明らかになりました。安全保障上の懸念から自国や域内の技術を優先する動きが広がる一方、技術力や市場シェアの面で課題も残されているということです。
ヨーロッパの政府機関では現在、アメリカのサービスから離れ、独自の技術基盤を構築しようとする動きが加速しています。この背景には、2018年にアメリカで成立した「CLOUD法」があります。この法律は、データが海外に保存されている場合でも、アメリカのIT企業に対し法執行機関へのデータ提供を義務づけるものです。このため、ヨーロッパ国内にサーバーを設置していても、重要なデータの安全性が担保されないという懸念が広がっているということです。
政府が保有する情報の中でも、医療データは特に機密性が高いとされています。イギリスは新型コロナウイルスの感染拡大期に、国民保健サービス(NHS)のデータに関してアメリカのIT大手などと契約を結びましたが、現在では見直しを求める声が上がっています。一方、フランス政府は1年前、医療データ基盤をアメリカ企業のクラウドサービスから、国内のクラウド事業者である「Scaleway(スケールウェイ)」に移行する方針を発表しました。
また、欧州委員会が実施した総額1億8000万ユーロ(約297億円)規模の「ソブリン・クラウド(主権的クラウド)」の入札では、Scalewayを含むヨーロッパの事業者4社が選ばれました。アマゾンがヨーロッパ向けに立ち上げたクラウドサービスは選定から外れました。ただ、落札企業の一部がアメリカ企業とフランス企業の合弁会社の技術を使用していることから、アメリカ側からのデータアクセスの懸念が完全に払拭されたわけではないとの指摘も出ています。
巨大IT企業に代わる技術を育成する取り組みには、課題も残されています。フランスの公務員向けに推奨された検索エンジン「Qwant(クワント)」は、アメリカ企業の検索技術に依存していたことが問題となりました。これを受け、Qwantはドイツの非営利団体と提携し、ヨーロッパに拠点を置く独自の検索インデックスを立ち上げました。しかし、利用者の規模はアメリカの競合他社に大きく遅れをとっているということです。
ヨーロッパの企業が市場シェアを獲得するためには、公共調達が重要な役割を果たすと期待されています。欧州委員会は、EUの法律と価値観に準拠したデジタルソリューションの提供を市場に促す方針です。さらに、フランスの政府機関がウィンドウズからオープンソースのOSである「Linux(リナックス)」へ移行を進めているほか、ドイツやイタリアなどの機関でも、アメリカ企業の製品をオープンソースの代替ソフトに置き換える動きが進んでいます。
一方で、民間企業の動きは鈍いのが現状です。ドイツのルフトハンザ航空やエールフランスなどは、機内Wi-Fiサービスにアメリカの「スターリンク」を採用しています。ヨーロッパの代替サービスが選ばれるためには、技術的な競争力を高める必要があるとされています。
しかし、アメリカのIT大手がヨーロッパの厳しい規制を敬遠する動きも見られる中、ヨーロッパの言語や文化に配慮した独自のソリューションには新たな市場機会が生まれています。カナダやドイツの政府がAI企業の合併を支援するなど、「アメリカ製でも中国製でもロシア製でもない」という点が、世界市場における新たな強みになりつつあるということです。
