米大手ベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)」でバイオ・ヘルスケア部門を率いていたビジェイ・パンデ(Vijay Pande)氏は、新たにAI(人工知能)とバイオテクノロジーに特化した投資ファンド「VZVC」を設立し、少数の企業に集中投資する方針を明らかにしました。
パンデ氏はかつてスタンフォード大学の化学教授として、分散コンピューティングプロジェクト「Folding@home」を構築したことで知られていました。その後、a16zに参画し、10年以上にわたりヘルスケアおよびライフサイエンス分野の投資を牽引し、運用総額を約40億ドル(約6200億円)規模にまで成長させました。
しかし、同氏は昨年6月にa16zを退社し、長年の投資家仲間であるザック・ワーナー(Zach Werner)氏とともに新ファンド「VZVC」を共同設立しました。新ファンドでは、年間数十件の投資を行う従来の手法から転換し、年間5件程度の厳選した企業に集中投資する方針だということです。また、投資担当のアソシエイトを雇用せず、日常業務の多くをAIで自動化するとしています。
パンデ氏は、生物学が「発見の科学」から「工学的に設計できる分野」へと移行しつつあると指摘しています。AIや機械学習の進化により、特定の疾患に対する創薬ターゲットの特定や、最もコストがかかる臨床試験の効率化が期待されているということです。
臨床試験については、「新薬が第1相から第3相まで成功する確率はわずか20%であり、失敗の主な原因はマウスなどの動物モデルが人間に完全に当てはまらないためだ」と説明しています。AIモデルを活用することで、この予測精度を大幅に向上させることができるとしています。
また、患者一人ひとりに最適な治療を提供する「個別化医療(プレシジョン・メディシン)」の重要性にも言及しました。従来は血液検査の結果を平均値と比較していましたが、今後は個人の状態に基づいた最適な医薬品の選択が可能になるということです。ゲノム解析だけでなく、タンパク質などの測定技術の向上とAIの融合が、この分野の発展を後押ししているとしています。
一方で、バイオテクノロジー分野におけるAI活用の課題として、データの閉鎖性を挙げています。テキストデータとは異なり、生物学的データはインターネット上から容易に収集できないため、各企業が独自のデータセットを構築せざるを得ない状況にあります。パンデ氏は、将来的には生物学情報の基盤モデルが構築され、オープンソースのAIモデルが広く普及することで、医療分野全体に大きな影響を与える可能性があるとの見方を示しました。
新ファンドでの投資領域については、「医療提供システム向けのAI」と「臨床試験向けのAI」の2つに注力する方針です。創業者に対しては、誠実さや長期的な視野を持ち、「共に勝つ」ことを目指す姿勢を求めているということです。
パンデ氏は、AIが医療のすべてを解決するという過度な期待に対しては警鐘を鳴らしており、「AIの性能は学習データに依存するため、データが不足している領域では魔法のように問題を解決することはできない」と冷静な見方を示しています。
