米国の素材開発スタートアップ企業「アークトゥルス(Arcturus)」は、送電網における電力の損失を半減させる可能性がある新たな金属素材を開発し、シードラウンドで800万ドル(約12億4000万円)の資金を調達したと発表しました。
世界的なエネルギー転換やデータセンターの増加に伴い、銅やアルミニウムの需要が急増しています。ある研究によれば、現在から2050年までに、人類の歴史上で採掘された総量を超える銅を生産する必要があるということです。特にアメリカでは送電網の老朽化が進んでおり、これらの金属素材への依存度が高まっています。
アークトゥルスの創業者でCEOのアミール・マシャル氏は、「AIの普及やあらゆる産業の電動化により、送電網には過度な負荷がかかっている」と指摘しています。これまで非公開で開発を進めてきた同社は、単に金属の量を増やすのではなく、素材そのものを改良する新たな解決策を提示しています。
同社が開発した技術は、レーザーを用いて銅やアルミニウムに炭素ナノ材料を注入するものです。これにより、送電線が熱によって失う電力量を削減できるとしています。従来の金属をこの新素材に置き換えることで、同じ太さの送電線でもより多くの電力を送ることが可能になるということです。
実用化されれば、送電網における電力損失を半減させることができ、平均して約3%、電力網が最も混雑する時間帯には最大10%の電力を新たに確保できる見込みです。これは、アメリカにおける約1年分の電力需要の増加分に相当するとしています。
マシャル氏によれば、金属は熱を持つと導電性が低下し、熱として無駄になるエネルギーが増加します。同社は最終的に送電網への導入を目指していますが、まずはドローンやロボット工学、データセンターなど、わずかな電力効率の向上が大きな影響を与える分野から事業を展開する方針です。
今回の資金調達はイニシャライズド・キャピタルが主導し、トヨタ・ベンチャーズやブレイクスルー・エナジー・ディスカバリーなどが参加しました。
現在はカリフォルニア州の研究施設で数センチメートルのワイヤーを製造する実証段階にありますが、調達した資金を活用して数十メートル規模での製造体制を構築する計画です。これにより、電気モーターのコイルや配電設備の部品など、さまざまな用途での試験運用を進めるとしています。
この新素材は、既存の銅やアルミニウム製品をそのまま置き換えられるよう設計されており、システムの再設計や新たな取り扱い訓練は不要だということです。ドローンの軽量化や電気自動車(EV)の効率化に加え、データセンターの冷却に必要なエネルギーの削減にもつながると期待されています。
