米アップルの共同創業者スティーブ・ジョブズ氏の息子であるリード・ジョブズ氏が率いる、がん治療に特化したベンチャーキャピタル「Yosemite(ヨセミテ)」は、AI(人工知能)の活用によって創薬や臨床試験の効率化が急速に進んでいるとして、今後の投資戦略や事業方針を明らかにしました。
Yosemiteは2023年に設立され、バイオテクノロジー企業の立ち上げや大学の初期研究への支援を行っています。ジョブズ氏によりますと、同社は今年、第2号ファンドの一次募集を完了し、目標額を3億5000万ドル(約542億円)に設定しているということです。
同社は投資対象をバイオテクノロジー市場の約4割を占めるがん領域に絞る方針です。資金の約3分の1は、イェール大学やスタンフォード大学などの研究者と共同で新たな企業を設立するために充てられるとしています。また、運用資産の2.5%および管理報酬から年間100万ドル(約1億5500万円)を、見返りを求めない助成金として研究機関に提供する独自の取り組みを行っているということです。
■ AIがもたらす医療と創薬の変革 ジョブズ氏は、医療現場や創薬プロセスにおけるAIの役割が高まっていると指摘しています。特に、新薬開発において最大のコストと時間を要する臨床試験への影響を強調しました。がんの第3相臨床試験には約2億6000万ドル(約403億円)の費用がかかるとされていますが、AIを用いて既存の患者データから「合成対照群」を構築することで、実際の患者募集を半減させ、開発スピードを大幅に向上させることができるとしています。
また、創薬分野においても、AIはこれまで治療薬の開発が困難とされてきた「KRAS」や「p53」といったがん関連遺伝子の新たな標的を発見する上で、重要な役割を果たしているということです。
■ 注目する最新技術と製薬業界の動向 投資先としては、B型肝炎ウイルスなどの活動を遺伝子配列を変えずに制御する「エピジェネティック編集技術」を開発する企業や、超音波を用いて非侵襲的に腫瘍を破壊する医療機器メーカーなどを支援しているということです。現在、2つのファンドを通じて約25社に投資を行っています。
一方、製薬業界の動向についてジョブズ氏は、大手製薬会社が主力薬の特許切れに直面していることや、新型コロナウイルス禍で蓄積した資金を背景に、企業買収の動きが活発化しているとの見方を示しました。例として、米製薬大手イーライリリーがバイオ企業を70億ドル(約1兆850億円)で買収した事例を挙げています。
■ 長寿ビジネスへの慎重な姿勢 近年注目を集める「長寿(ロンジェビティ)」分野については、老化のメカニズムが細胞や組織によって異なるため、統一された理論が確立されていないと指摘しました。そのため、画一的なビジネスとして展開することには慎重な姿勢を示し、個人の状態に合わせた医療の最適化こそが重要であるとの考えを示しました。
ジョブズ氏は、AI技術の進展や製薬業界の環境変化により、がん治療の分野でかつてないほどの機会が広がっているとして、今後も革新的な治療法の開発を支援していく方針です。
