米国のスタートアップ企業「Shinkei Systems(シンケイ・システムズ)」は、日本の伝統的な技法である「活け締め」を自動化するロボットを開発し、漁獲から加工、流通までを一貫して手がける新たな水産サプライチェーンの構築を進めていると発表しました。米国の有力ベンチャーキャピタルであるファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)から支援を受け、水産業界の課題解決を目指す方針です。
同社が開発したロボット「ポセイドン」は、船上に設置して使用する冷蔵庫ほどの大きさの装置です。画像認識技術を用いて魚の脳の位置を特定し、瞬時に脳を刺してエラを切断する仕組みとなっています。これにより、魚が窒息などで苦しむ時間をなくし、ストレスホルモンや乳酸の分泌を抑えることができるということです。
これは、日本の伝統的な「活け締め」を工業規模で自動化したものです。魚を即死させて血抜きを行うことで、鮮度を長く保ち、旨味を引き出す熟成が可能になるとしています。
同社は、単なる機器メーカーにとどまらず、水産物の調達から加工までを自社で一貫して行う方針です。漁師にロボットを無償で提供する代わりに、処理された魚を通常の市場価格よりも高く買い取ります。その後、ワシントン州タコマにある自社の加工工場に輸送し、独自の消費者向けブランド「セレモニ(Seremoni)」として販売しています。
すでにロサンゼルスの高級スーパーマーケットで販売されているほか、ミシュランの星を獲得した複数のレストランにも水産物を供給しているということです。また、これまで米国産の魚介類を低く評価する傾向があった日本の魚市場に対しても、マグロ以外の米国産魚類を輸出するという異例の成果を上げているとしています。
同社の創業者であるサイフ・カワジャ氏は、最大の利点は品質向上と賞味期限の延長にあると説明しています。通常5日から7日程度の賞味期限が、12日から14日へと大幅に延びるということです。水産業界では、水揚げから小売店に並ぶまでに約18%が廃棄されていると推計されており、この食品ロスの削減につながるとしています。
さらに、米国の水産業界が抱える構造的な課題の解決も目指しています。現在、米国で漁獲された水産物の多くは、加工のために中国などの海外へ輸出され、再び輸入されています。同社は、漁獲から加工、流通までの全工程を米国内で行う「リショアリング(国内回帰)」を推進し、サプライチェーンの透明性向上と効率化を図る方針です。
同社に出資するファウンダーズ・ファンドのパートナー、デリアン・アスパロウホフ氏は、流行のIT分野ではなく、物理的な課題に取り組むハードウェア企業を重視する姿勢を示しています。同ファンドは過去に宇宙開発企業スペースXへの早期投資で数百億ドル(数兆円規模)の利益を上げたとされており、今後も現実世界の複雑なシステムに取り組む企業への投資を加速させるとしています。
水産業界という伝統的な分野において、最新のロボット工学と独自の流通網を組み合わせた同社の取り組みが、今後どのような成果を上げるか注目されています。
