アメリカのハーバード大学の歴史家であるジル・ルポール氏は、巨大テクノロジー企業が民主主義国家の機能を代替しつつあるとして、アルゴリズムや企業による支配への懸念を示す見解を発表しました。ルポール氏は新著の出版に合わせ、テクノロジー業界のリーダーたちがSF作品を誤って解釈し、民主主義の根幹を脅かしていると指摘しています。
ルポール氏は、アメリカのIT専門メディアの番組に出演し、民間企業が国家の役割を担うようになる現状を「人工国家」と表現しました。この変化について、同氏は「アルゴリズムや企業、機械による支配という、専制政治への回帰を意味する」としています。同氏は技術の発展そのものを否定しているわけではなく、民間企業が市民の同意なしに国家の機能を奪っている点に問題があるということです。
また、シリコンバレーの企業やその指導者たちが、独自のルールを制定したり、人工知能を政治の指導者にする構想を語ったりするなど、国家のような振る舞いを強めていると指摘しました。ルポール氏によれば、イーロン・マスク氏をはじめとするリーダーたちは、SF作品に描かれた警告を未来の設計図として誤って解釈しているということです。
SNSが民主主義に与える影響についても言及しています。旧Twitter(現在のX)などが「デジタルの公共の場」と呼ばれ、民主主義を向上させるという考え方について、同氏は事実と異なると否定しました。SNSは一部の極端な意見が強調される構造であり、有権者の全体像を正確に反映するものではないとしています。
さらに、データセンターの建設をめぐる地域社会との軋轢についても触れています。人工国家の構築には膨大な資源が必要であり、自然環境を破壊するため、最終的には破綻する運命にあるということです。現在、各地で起きているデータセンター建設への住民の反発は、エネルギー消費や水資源への懸念から生じており、民主主義的な意思決定の重要性を示す事例だとしています。
最後に、ルポール氏は「破壊的イノベーション」などのビジネス理論が、歴史的な裏付けを欠いていると指摘しました。テクノロジーの発展に伴う社会の変化を適切に導くためには、技術者や起業家が歴史家とより深く対話していく方針が求められるということです。
