AI(人工知能)を活用した創薬において、学習データの不足が課題となる中、アメリカのバイオテクノロジー新興企業「ビボダイン(Vivodyne)」は、人間の生体組織を人工的に培養し、AIの学習に必要なデータを自動で収集する大規模な施設を開設したと発表しました。
ビボダイン社によりますと、同社が開発した自動化システム「HIVE」は、20種類の人間の生体組織を培養し、自動で薬物投与や観察を行うことができるということです。現在、AI創薬のモデルは主に動物実験や単一の細胞、たんぱく質のデータに依存しており、生きた人間の組織から得られる因果関係を示すデータが不足していると指摘されています。
同社の共同創業者で最高経営責任者(CEO)のアンドレイ・ジョルジェスク氏は、「人間のデータがなければ、AIはマウスのがんを治すことしかできない」と述べ、現在のAI創薬におけるデータの限界を強調しています。
近年、オープンAIやグーグル・ディープマインドなどのIT大手は、AIががんなどの疾病治療に大きく貢献するとの見通しを示してきました。しかし、動物実験で有効性が確認された新薬候補の90%が、人間を対象とした臨床試験(治験)で承認に至らないのが現状です。
こうした課題を解決するため、ペンシルベニア大学から独立して2021年に設立されたビボダイン社は、人間の臓器の反応を高精度で再現する技術を開発しました。同社によりますと、肝臓細胞の毒性試験では94%、気道組織では96%の精度で人間の反応と一致し、骨髄組織では20種類の抗がん剤テストで100%の一致を見せたとしています。
同社はこれまでに、投資会社などから約8000万ドル(約124億円)の資金を調達しています。先週には、サンフランシスコ近郊に世界最大規模となる「ヒューマン・データ・センター」を開設しました。ジョルジェスクCEOによりますと、この施設では現在、アメリカ国内で行われているすべての動物実験の2倍の処理能力を実現しているということです。
同社は複数の大手製薬会社と提携し、数千万ドル(数十億円)の費用がかかる臨床試験に進む前に、新薬の有効性をより正確に予測することを目指す方針です。
さらに同社は、数多くの実験を同時進行で追跡することで、細胞の状態がどのように変化するかという因果関係のデータを収集し、AIモデルの学習に役立てるとしています。ジョルジェスクCEOは、「人間の生物学における因果関係を確立することが、将来の複雑な疾患に対する複合的な治療法を開発する基盤になる」としており、AIを活用した医療の進展に意欲を示しています。
